夕暮れ読書メモ

本の感想が多めです

古民家でおこる不思議_『営繕かるかや怪異譚』

営繕かるかや怪異譚

営繕かるかや怪異譚


ホラー好きと一口に言っても、本を読むのが好き・映像や写真を観るのが好き・お化け屋敷などで体験するのが好き・怪談を聴くのが好き、など色々ある。複数被る場合もあるだろう。私の場合、基本的に本以外は遠慮したい。文字というクッションを挟まないと、怖すぎて楽しむどころではない...。
本の中でも特に実話系が好きなのだが、今回感想を書くのは小説だ。

前に読んだ小野不由美さんの本『鬼談百景』と、『営繕かるかや怪異譚』は感じが似ている。薄闇にじんわりと広がるような恐怖と懐かしさ、そんな雰囲気を今回の本にも感じた。
余談だが、『鬼談百景』の解説がとても素晴らしかった。怪談の語り手として有名な稲川淳二さんが担当していて、作品から醸し出される雰囲気を的確に言葉で表している。
小野さんの代表作の1つである『残穢』も読んでみたいが、めっちゃ怖いらしいので心の準備をしなくては...! ということで本題。

あらすじみたいなもの

小さな城下町に残る古い町並み。河口が近いせいか空気はどこかしっとりとしていて、土塀と石畳の続く小路がいくつも細長く伸びる。そこに連なる家々は建ててから相当な年数を経ているであろう古い家ばかり。そんな家に住む人々が遭遇する怪異を、営繕家の尾端はどのように解決していくのか…。同じ町を舞台にした6つの物語が収録されている。


この表紙のイラストは、闇を濃厚に漂わす古民家、雨降る小路などが描かれていて、本の雰囲気そのものがよく表れている。水彩画タッチでほんわかなのに、よーく見ると結構怖い。『蟲師』の漆原先生が手がけていると知り、驚きつつも嬉しかった。もしこの本が漫画化するなら、ぜひ漆原先生に描いてもらいたい。
畳に落ちた夾竹桃(きょうちくとう)の花が不気味で綺麗。イラストの随所に物語に出てくる怪異が紛れ込んでいて、ついじっくり探してしまった。でも5つしかない。物語は6つなのに。特設サイトをみると「檻の外」がないみたいだ。


以下 ネタバレあり↓


もしここで語られる怪異に出会ったら、根こそぎ原因を取り除き、二度と現れないことを願う人がほとんどだろう。引っ越しが1番簡単だが、事情があってしたくない又はできない人はどうすればいいのか。
尾端が提案する方法は「修繕」である。ずっと昔からその家に存在する怪異と無理なく共存したり、家へと入ってこようとする魔を回避するためだ。
怪異と戦わない、というのがとても新鮮だった。初めは半信半疑な住人も尾端の考えに共感し、家の改築や修繕を依頼する。工事が済むと、見事家に平穏が訪れるのだ。
尾端の仕事とは、「障りになる疵(きず)は障りにならないよう直す、残していい疵はそれ以上傷まないように手当てして残す」ことだと言う。凄腕のカウンセラーやコンサルタントのように、相談者を安心させ的確に問題点をあぶり出し対処する。尾端が出てくると、途端に安心してしまう。笑 この怪異の場合はどんな風に修繕するのかな?と考えるのが楽しい。


語りが淡々としているせいか肝が据わった人物が多いせいか、一見そんなに怖くはないのだが、自分に置き換えてみると相当怖い。命をも奪われかねない怪異がほとんどなのだ。
最後の短編で「怪異の存在を見聞きしたくない」と考える住人に、尾端が「実害がなければ、意志の力で無視はできます」と言ったシーンがあるが、その家で生活するしかない状況と子供を守る固い決意があれば、とてつもなく怖い存在との共存も案外できるのかもしれない...?


基本的に家が舞台になることが多く、間取りをイメージするのに苦労した。垂れ壁や四つ目垣など、建築用語とまではいかないが家に関する用語も結構出てきた。私はいちいち調べてしまったがスルーしても普通に読めそう。

3章 雨の鈴

しとしと降る雨のなか鈴の音と共に現れ、訪れた家の住人を死に追いやる『雨の鈴』
小路がくねくねしていて分かりにくかったので、雑だが図を描いてみた。汗
正確である自信はないのでそのつもりで見て欲しい。紫の丸は、小説で書き表されていた喪服の女の移動地点と停止地点である。

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私は「いない人」など絶対にみたくないのだが、有扶子は見る能力があったからこそ助かったと思う。
この本の中で1番肝が据わっている女性は有扶子だろう。雨の日に出かける度に喪服の女の脇をすり抜け、自分で思いついた解決法はご近所さんが犠牲になるので潔く諦めた。最後には一瞬、命を取られるのも運命だと受け入れている。
この後も徘徊を続けるであろう魔と住民は、有扶子のように受け流しつつ共存していくしかないのかもしれない。しかし尾端に出会えなかった佐伯家や千絵の両親が本当に不憫でならない。
細かいけど、佐伯家のお祖母ちゃんよりも千絵の父が亡くなった方が早いので、不在だったら次の家にいくのかもしれないと思ったり。

おわりに

この物語で怪異に出遭う女性達は、大なり小なり生きづらさを抱えている。尾端に頼み怪異が解決したとしても、生きづらさや怪異以外の問題が解消した描写は特にない。すごくあっさりしている。それなのに今後良い方向へ向かうんだろうな、という予感で読後感は爽やかだ。