夕暮れ読書メモ

本の感想が多めです

自由な読書とは_『読書の価値』

読書の価値 (NHK出版新書 547)

読書の価値 (NHK出版新書 547)

 

森博嗣さんのエッセイが面白いので、この本も「信頼できる作家+面白そうなテーマ(読書)」ということで迷わず購入した。森博嗣さんの読書・本に対する姿勢や考えが深く掘り下げられていて大変興味深く読んだのだが、ある項目を目にして呆然となった。

森博嗣さん曰く、本選びのたった一つの原則は「本は自分で選べ」。勘を信じてタイトルだけで手にとってみることが重要という。せいぜい、作家名・裏表紙に書いてあるあらすじ・オビを確認する程度に留めた方が良いらしい。

実はこの本を読む前に、書評本を数冊読み終え今後の読書の参考にしようと思っていたので、かなり狼狽えてしまった…苦笑 この原則こそがこの本のテーマであると言い切っていたので、大事な所を外してしまった感がある。まぁ読んでしまったものは仕方ない。

思い返してみると今まで「つまらない本に安くないお金を払いたくない。とにかく失敗したくない!」という思いが先行し、つい人のおすすめや評価に頼りきっていた。購入前にアマゾンのレビューチェックをしてしまうあたりかなり重症だ。人と自分とでは感じ方が違うとわかっているのに…。このような状況は、確かにあまりにもがんじがらめで不自由かもしれない。賢く選んでいるようでいて、私は自由から程遠い所にいたのである。

もし仮に本選びに失敗したとても、つまらない本読み方をこの本で教えてくれている。

 

 本選びのことに関してまだ色々思うところがあるのだが、長くなるので他の項目についてもさらっと説明してみる。

 

第1章では、幼少期~大学生頃までの読書の経歴やそれに絡めた本の読み方などが書かれている。海外の推理小説萩尾望都さんの「ポーの一族」との出会い。

森博嗣さんは言葉で考えるのではなく、頭のなかに映像を展開して考えるそうだ。小説を読む時も同じで、文章からイメージを展開(その舞台でキャラクタが動くシーンを思い描く)させながら理解する。だから本を読むのが遅いという。私も遅読なので親近感を抱いたが、きっと私の何倍も豊かに想像を巡らせて読んでいるのだろう。

私が遅い原因は、分からない単語の意味をスルーできず調べたり、意味がわからず何度も同じ箇所を読んだりするからだと思う。また、書いてある事柄に反応して過去を振り返ったり妄想したり余計なことで読書を中断しているのも要因の一つだろう。しかし、「速く読む」ということが必ずしも良いことばかりではないことがわかり、気持ちが楽になった。

この世には莫大な量の本がある。今より多く読むには、読書スピードを上げるか読書に充てる時間を多くとるしかない。なるべく後者を選びたいところだ。

第2章では、本の選び方や自由な読書の楽しさについて書かれている。

本を人を同じような存在とする考え方は、今までにもちらっと聞いたことはあった。しかし、この本では思いもよらない様々な切り口で説明されておりここまで深く納得し面白がれたのは初めてかもしれない。森博嗣さんの本は、私にはない考え方や発想をたくさん教えてくれる。もちろんそれをそのままトレースすることは不可能だが、少しずつ取り入れてみたり違いを楽しんだりすることはできる。「未知」の人物や本は緊張するけれど知り合う価値が何かしらある。私の場合、人間は少し厳しいが、本になら未知であっても飛び込んで行けそうだ。

第3章では、研究者の頃に学生が書いた文章を読んだり自身が書いた時代を振り返り、文章力について言及している。

第4章では、インプットとアウトプットについて。

ーネットに本の感想を上げる意味とはーという項目があった。森博嗣さんは共感を求めているからだろうと推測している。

そもそも感想文を書く意味は?面白かったという感想を余すことなく正確に外に出し他者に伝えることは不可能だ。森博嗣さんも「無理に言葉にすることで失われるものの多さが気になる」と書かれているがその通りである。それでも言葉を紡いでネットに感想を上げておくのは、他の人と繋がりたい気持ちが多かれ少なかれあるからだろう。私は単純に感想と感情の吐き出し場所と捉えていたが、共感を求めている心が無いかと言われれば少なからずあると思う。読んだ本を勧める気持ちはあまりないけれど…。

第5章では、出版業界や本自体の未来について語られている。

リアルで説得力があり、将来ほぼこの通りになっていくんだろうなと感じさせられた。私は大学時代に「雑誌が今より売れるようになる提案」のレポートを授業で求められたことがあるが、いかに当時自分が書いた提案が的外れで雑だったかを痛感した。

 

おわりに 

読書の価値とは、面白かったと自分自身が思うこと。すごくシンプルで驚いたが、本質とは得てしてそういうものかもしれない。

どんな本もどんな人も、読んだり話を聞いたりしたら、第一に感謝をすることである。この気持が大事だと思う。感謝をすること、尊敬することで、その内容が僕の中で綺麗に留まり、優しく発展し、あるいは発酵し、違うものに展開するかもしれないのだ。

(P.87)

つまらない本の読み方からの引用だが、素直で素敵な文章だ。

失敗を怖れずに自分の感覚を信じて本を選び、楽しみを自分から見つける能動的な姿勢で本を読もう。